不動産投資の指標 借入金調達利回り(調達コスト)と物件利回り、不動産投資の優良物件です。

不動産投資の指標 借入金調達利回り(調達コスト)と物件利回り

2010年6月15日 by Quality-F

本日は読者が目を皿のようにしてチェックしている物件の利回りと、ファイナンスによる借入金調達利回りについてお話したい。

昨今、周知のとおり投資物件の品薄感が続いている。利回りも着実に低下している。ところで、利回り〇.〇%とクライテリア(投資基準)については良く耳にするが、フリーCFベースの指標(借入金返済後の実質的な収入)についてはあまり関心が無いように感じる。そもそも、読者は何を基準に利回りを判断しているのだろうか?

不動産投資の世界ではIRR(内部収益率)等の指標で、出口戦略まで見据えたシナリオをベースに投資判断を行っている。最低 IRR 〇% は確保しないと、ベースに乗らない等々の話しをプレイヤーから聞く。物件自体のクライテリアであれば、NCF(NOI)ベースで〇%は欲しい等である。当然として当該指標は、様々なコストや経費等を鑑みて試算している。つまり、一言で分かりやすく言えば、不動産投資のスキームとして、”これだけ儲ける”が明確に決められているわけである。そして、当該指標をベースとして、各投資案件を吟味していくわけである。

一方、読者はどうであろうか?物件の利回りに一喜一憂しているのではないか?しかしながら、そもそも考えて欲しい、物件の利回りで50bps(0.5%)は非常に大きいが、金利で考えればどうだろう?

例えば、LTV10%で30年、金利4.0%の借入金調達利回り(コスト)が約5.2%。他行との競争やキャンペーン、ノルマ等々により、金利が仮に3.0%で調整できたとすれば、調達利回りは約4.6%まで低下して、スプレットは約60bps(0.6%)となり、同じ儲けで、60bps低い物件まで手が出る事となる。60bpsの違いは非常に大きい。グロス利回り9.0%の物件と8.4%の物件ではレベルが大きく異なることは読者も痛いほど認識しているであろう。

つまり、表面利回り9.0%の物件を調達利回り6.0%で購入した場合、空室損失込みの経費率を20%程度と想定すれば 9.0% × (1 - 20%) - 6.0% = 1.2% の純収入が得られる。仮に物件のバリューを1億円とすると年間120万円の不動産経費控除後・借入金返済後の収入が残ることとなる。このように、自己の投資スキームを基準(LTV、金利等)として、借入金調達利回りを把握しておけば、容易に(当該物件であれば)、いくらならOKとの吟味が可能となる。

3億円程度の物件で、3.0%の純利回りを確保したければ、仮に、LTV30%、期間30年 金利3.0%の購入スキームであれば、借入金調達利回りは3.57%となり、積上げれば(3.0%+3.57%)/0.8 ≒ 8.21% の物件を見立てればよいわけである。逆に、リタイヤ狙いで、年間1,000万円のフリーCFを確保したいのであれば、仮に与信等から3.0億円までの物件が購入可能と想定すれば、1,000万円/3.0億円=3.4%の純利回りが必要となる。したがって、自己資金3,000万円(LTV≒10%)で金利4.5%、30年であれば、借入金調達利回りは5.53%となり、物件の経費率を20%と想定すると、≒11%の表面利回りが必要となってくる。逆に与信がそこそこ強く(「りそな銀行のプレミアム(笑)」等)、金利が2.0%程度で調達できれば、借入金調達利回りは4.0%となり、≒9.25%の表面利回りの物件でクリアーとなる。

以上のように、物件の利回り水準と同様に、ファイナンススキームをできる限り有利にして、人一倍アンテナを張って、調達利回りの低減を最大限に図り、明確にする事により、物件の吟味がより容易に、よりスピーディーに可能となる。また、今までは見過ごしていた物件も、「あと少しの価格交渉で手が出る」といったケースも多い事に気がつくであろう。

なお、機会があったらお話しようと考えているが、金利の調達利回りに対する感応度は当然として、LTV(借入比率)が高いほど、より高くなる。また、上記借入条件(金利・融資期間)等々は具体的には各人の与信のほか、物件の担保性(築年・構造・ランドバリュー等々)が複雑にリンクしてくる事は読者も周知の通りである。その上、レンダーの融資姿勢もコロコロと変るので、信頼の置ける担当者を作る事も非常に大切である。

※借入金調達利回りは筆者が良く使う指標で、返済額の物件価格に対する割合(利回り)である。また、簡略化のために、物件購入時の諸経費は見ていない。